本書は、まず中国社会に日本動漫(アニメとマンガ)がもたらした影響を
実証的・体系的にあきらかにしていく。
・中国のコスプレは国家事業。参加者60万人。イベント番組の視聴者5億5千万人!
・NBAヤオミンを生んだ、『スラムダンク』発の中国バスケットボールブーム
・日本アニメ放送禁止に抗議、地下鉄爆破を予告した大学生!
・・・などなど想像を絶する事実が次々紹介されていく。
ただその程度の紹介なら、おそらく並みのアニメ・ライターにでも可能。
この本はそれに止まらず、
中国の民主化の行方・日中関係の行方にも明確な見通しを与えてくれる。
まず、日本動漫に夢中になった80年代以降に子供時代をすごした中国人は、
人生に対する希望、豊かな生活への憧れ、恋愛や友情の価値などなどを動漫に見出し
さらに安い海賊版の中から自由に見たいものを”選択”することを覚え、
結果として民主化を希求するような精神のベースを形づくっていると指摘。
そういう状況になったのは
“たかが動漫”という当局の油断+安価な海賊版による普及
+日本の著作権者側の無力感
というファクターが重なったからだと的確に分析。
そして、江沢民が台湾への政治的メッセージ/ゆさぶりとして
95年くらいからもちだした抗日史観・抗日教育がもたらした
【サブカルチャー化した2005年の反日運動】と
海賊版によって涌出してきた【親日的サブカルチャーとしての動漫】
の両者が共存するという矛盾を解きほぐしていく過程で、
日中関係のねじれを説得力を持って説明している。
著者の遠藤誉氏の本職は物理学者らしく、
一次情報の重視・数量的な把握の重視・素直な因果関係の把握を駆使して
歴史・社会・技術・政治が複雑に絡まった現象を
複雑さを省略しないで、しかも分かりやすく理解させてくれる。
更に、中国で幼少期を過ごし混乱の中でご兄弟を失うという経験をお持ちで
よりよい日中関係を願う想いがずしりと伝わってくる。
好奇心から手にとって読みはじめたこの本だったが、
意外にも、深い知的満足感と感動が残った。