中国に関する情報は日本ではまだまだ一面的だ。江沢民はじめ指導者の権力闘争や、政府発表の政策は報じられるが、中国の人々の生活の実態や、経済政策の失敗の影響などは、十分には伝わってこない。本書でも指摘されているとおり、反中国的(一例が1つの中国を否定したり、人権問題に関する政府批判)な報道が事実上認められていないからだ。NHKが日中ビジネスに関するある問題点を報じたら、事実上中国支局長は、国外追放に遭ったという本書の伝える話は、1996年という最近の出来事だ。他方、著者らのスタンスとは違うが、私は個人的には、日本では感情的な中国批判が横行しすぎていると思っている。
例えば、南京大虐殺の犠牲者の数を巡る不毛な議論が、中国の人々の神経を逆なでする。いい加減に、冷めた目で中国を、また日中関係を考えるべき時が来ている。そうした人々にとっては、格好の書である。
ここまで中国に自由自在に振る舞わせているのは、政治家を含めて日本の責任が大きいというのが著者らのもう1つのメッセージである。政府の官僚が「ようやく中国はガイドラインを認めてくれた」と語ったり、民主党の訪中団が人権問題に言及しなかったとのエピソードがその一例だ。古森氏が中国要人に、日本憲法を変えるなと言うのは中国が最も嫌う内政干渉ではないかと問うたところ、要人は憤慨したものの、あとで、そういうことをまともに言う日本人が少ないのでとても参考になったと述べたという。
もっとも、知識の乏しい私でもやや「本当かな」という指摘もあった。例えば、実は米国企業も中国市場に冷めているという点である。確かに、複雑な商慣行や、法律上の変更に辟易してはいるものの、米国は、中国系米国人を使って、政府中枢に働きかけることができ、日本企業より有利だと聞いた。政府開発援助(ODA)削減議論も説得力があるが、具体的な代案に乏しい点が気にかかる。
共著ではあるが、章を分けての分担執筆ではなく、大きなテーマ(章)を設け、それに沿って、古森氏が語り、次いで中嶋氏が語るというリレー方式で話が膨らんでいく。結果的にこのスタイルがよかった。一方がエピソードとして挙げた事例を他方が、歴史を踏まえて取り上げることによって、臨場感が生まれている。
(慶応義塾大学教授 草野 厚)
(日経ビジネス2000/7/17号 Copyright©日経BP社.All rights reserved.)
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