国家論の盲点を突いて「世界国家」の分析概念を提起しているが、民族問題を考える上で単に理論面の理解だけでなく、私たちが民族にどう向き合うかを教えているという点で貴重な指摘と言うことができる。またチベット問題を理解する上で、政教合一体としてのゼクテが、それ自体政治結社となること、それゆえにダライラマのいう「高度自治」が、ある種物理的空間を越えた精神的空間の自治となるとき、そこに政教分離が前提されていない限り、香港の一国両制的な自治とはなりえないことを明確に論じている。またダライラマの主張するガンジー主義的な非暴力・不服従の主張がチベット人の出家僧侶、在家信者の間で必ずしも理解されず支持もされていないこと、それでいて多くの出家・在家がダライラマを尊崇していることの矛盾も、相当程度に解き明かされている。難解だが喰らいついて読む価値が十分にある。