井波律子氏の本は読んでいて本当に楽しい。中国古典作品のつぼを的確に指摘してくれる。この「中国の五大小説」は、(上)で三国志演義と西遊記、(下)で水滸伝、金瓶梅そして紅楼夢を、それぞれ粗筋を追いながら、その魅力の秘密、そして相互の共通性あるいは相違点を論じて、中国古典の五大長編小説の文学史的な位置づけと「物語」から「小説」への発展をわかりやすく解説してくれる。
(上)では約170頁で三国志演義を、約100頁で西遊記をそれぞれ扱う。著者は既に同じ岩波新書から「三国志演義」を上梓しているので、演義に関しては重複する論考が多い(例えば、虚なる中心劉備、華容道の関羽の名場面等)。しかし前著「三国志演義」が正史・三国志から演義の成立に至るまでの過程を概観した後、演義の魅力を探るスタンスだったのに対し、本書は「演義」の粗筋に沿って論考を進めるので、後漢末から晋による統一まで、三国志演義の粗筋を把握できる。従って、呂布や馬超についても触れている。また、三国志演義の締めくくりとして捕虜になった劉禅の笑いに着目するのは新鮮だ。
西遊記に関しては、三蔵法師の意外な無力さ・弱さの指摘が鋭い。日本のTVで夏目雅子が三蔵法師を演じたことも十分理由があることがわかった。
このように、各小説の粗筋と魅力のポイントをセットで解説してくれるお薦めの良書です。