評者は、中原名人の矢倉戦法をお手本に将棋を覚えた。大袈裟だが「師」のような存在だ。だから、対局中に倒れてそのまま引退となったのは今でも残念に思う。
2000局以上の対局からこれだけの棋譜しか読めないのは、些か物足りない感が拭えない。だが、一時代を築いた大棋士の足跡の集大成として、思い出話も交えて振り返ることができるのは素直に嬉しい。
中原氏の活躍舞台と言えば当然、名人戦を初めとするタイトル戦が主だ。だから、数多く登場する対戦相手も、大山、升田、米長、谷川など、ある程度限られてしまうのはやむを得ない。
その分、とくに第2部では、忘れ得ぬ大先輩から当代の第一人者たる後輩まで、取り上げる相手棋士がなるべく偏らないよう配慮されている。コメントの内容も、独特な味わいあるユーモアを交え、先輩には敬意を払い、後輩には期待を寄せることを忘れない。氏の人柄がとてもよく滲み出ている。
だが、氏も「まえがき」で述べているように、真の意味での集大成を目指したのであれば、巻末の記録ページがなんとも魅力不足だ。
たとえば、タイトル戦の戦績一覧では、各対局の戦型くらいは書いてあってもよかったのではないか。矢倉、相掛かりなど、居飛車系が中心になるだろうが、初の名人位奪取の一局は振り飛車だったのだから、同じ文字ばかり並んで単調になるといった不具合にもなるまい。
あとは、相手別、戦型別、先後別など、勝敗内容を多角的に整理分析したデータもほしかった気がする。
このあたり、あるいは、担当編集者がもう少し意識的にデータの収集や取り纏めをやっていれば、少しは恰好がついたのではなかろうか。
自戦解説書だからだろうか、名棋士の功績を後世の将棋史に遺し伝える意味では、全体に内容があっさりし過ぎな感じがする。ある種記念碑的な位置づけとも言える一書だけに、ソフトカバーの造本というのも軽々しい印象で、残念。