西洋史の中で、政治史の書籍は沢山ありますが、文化史や芸術史となるとかなり減ります。まして音楽史となると、とても少なくなり、本書のように社会史の観点から音楽史へアプローチするような啓蒙書は、中世・ルネサンス音楽の愛好家にとって待ち焦がれた本です。
ルネサンス音楽史を専攻した著者今谷和徳氏による『中世・ルネサンスの社会と音楽』(1983年初版)を元に、20年の研究成果を反映させ、全面的に書き下ろしたのが本書にあたります。
章だてとして、修道院文化と聖歌、パリと中世文化の最盛期、世俗歌曲の展開、十四世紀の諸相、転換の時代、フィレンツェとナポリ、北イタリアの諸宮廷、ローマとヴェネツィア、ハプスブルク家の宮廷で、フランドル・ドイツ・そしてスペイン、ヴァロワ=オルレアン朝のフランス、激動のイングランド、となっています。
音楽に関してかなり詳しく書かれていますが、やはり政治史や宗教史、文化史、そして社会史の中で、その時代の音楽の特徴や作曲家の生涯について記載してありますので、トータルの意味で当時の世相や文化を理解できるようになっています。
ただ、音楽学部で学んだり、音楽そのものの研究を続けてこられた方ではありませんので、より作曲家の個性の違いや、音楽と言葉の関係、ポリフォニーの変化、宗教曲と世俗曲の流布、音楽様式の変遷などの当方の持っている問題意識とは、うまくヒットしなかったのはないものねだりなのかもしれません。
とにかく類書もなく、広い範囲の時代とジャンルを扱いながら、とても丁寧な叙述で歴史を詳細に述べ、広く展開した啓蒙書ですので、多くの音楽愛好家や歴史好きの方の参考となることでしょう。