中世ヨーロッパの(開放耕地制の)農村のうち、史料(※)のよく残っている村としてイギリス南部のエルトンという村を選び、史料を精査して、それに基づき当時の村の統治や生産活動や人々の暮らしを詳細に再現している。(他の研究者の研究成果も参照している)
※)調査記録、会計記録、荘園法廷記録など
推測は殆ど含まれておらず、立証できる範囲で述べているようだ。やっていることはそれだけなのだが、人々が食い、泣き、笑い、争うさまが生々しく浮かび上がってくる。
このエルトン村の12〜14世紀が歴史年表の中のどこに位置付けられるか、といったことは、特に触れられてはいない。
膨大な過去の中から或る一つの場を切り出して本の中に定着している。しかもそれは中世だ。現代と隔絶してはいるが、遥か彼方でつながっていると思える。そこがいい。
異常なほど強い興味をかき立てられる。止まった時間の中に凍結された、ありありとした生と日常。他の歴史の叙述とは異なる方法論で書かれた、ユニークな本だと思う。
原著は1990年刊と、意外に新しい。しかも著者は米国在住ということも意外だ。
同じ原著者による本に『中世ヨーロッパの城の生活』『中世ヨーロッパの都市の生活』があり、いずれも講談社学術文庫から翻訳が出ているそうだ。読んでみたいと思う。
ジョセフ・ギース/フランシス・ギース『中世ヨーロッパの農村の生活』 青島淑子訳講談社学術文庫
2008年5月10日 第1刷発行