おもしろい。ヨーロッパで日付に即しておこなわれる数々の祝祭を、そのキリスト教以前の祖型からのまなざしで語り直すとき、何が見えてくるか。ヨーロッパの歴史的な重層性を語るにあたって(「序文」を寄せた中世史家・樺山紘一のことばを借りるなら)「キリスト教神学」にも「ユーラシア神話学」にも偏することなく、「神話と典礼とがきわどく接する現場から発生する、妖気をおびた火焔」を放つ、不思議な伝承と民俗の宝庫です。重要人物や事件で見てゆく歴史ではありえない、部厚い手応えのある歴史が名もない人々の年ごとの身振りから浮かび上がってきます。読んでいると、すべてがつながり、すべてが呼応していることが、しだいにわかってくる。生半可な知識の隙をつかれることの連続です。たとえば聖地モン・サン・ミシェルやサン・ミシェル・デギュイユを知っている人は、聖ミカエル(ミシェル)が山の聖人だということは知っているでしょう。でも、なぜ? それは大天使ミカエルがガルガーノ山上に出現したからです。ガルガーノ山に名を与えたのは牧童のガルガヌス。彼の牛が、その聖なる山を発見した。この牛の役割はメッセンジャー、つまりギリシャ神話のヘルメス、ローマ神話のメルクリウスにあたります。するとフランス南西部の地名サン・ミシェル・モン・メルキュールが聖ミカエルとメルクリウスをむすびつけていることもわかり、またガルガヌスはラブレーで有名な巨人ガルガンチュアにつらなっていきます。キリスト教西欧の起源にある、「それ以前の世界」を、非常にわかりやすいかたちで教えてくれる好著。翻訳もきわめて読みやすい仕上がりです。勉強になりました。