何やらの意図をこめたと言えそうな、少々微妙な時期に発刊された本ですね。でも、深刻ぶらずに読みやすく「世界遺産」の考えかたやあゆみが手際よく、テンポよく述べられています。
なかには、個人的な見解も明示された個所もありますが、全体としては立場がありますから、否定的・悲観的な書き方はされていませんし、巧みに避けているものもあります。しかし、本来の主眼は「ユネスコ事務局長は訴える」というサブタイトルが示すように、「今後の課題」と題された後ろ2章なのでしょう。これもグズグズしたところのない端的な記述ですが、現在の世界が抱える複雑多岐な背景をもつ問題に関わります。現ユネスコ事務局の考えかたが示されているととれます。
重箱の隅をつつくと「?」な記述も皆無とは言えませんが、個々には、石見銀山登録に関する話題、極めて端的に述べられたな彦根城の件など、興味をひくものもあります。
面白いのは、「世界遺産」が観光地の御守札・権威づけということで反対意見や疑問が呈されているなか、著者は、世界遺産めぐりのツアーが世界的に盛んになっていることについて、「ユネスコ憲章が謳う「国民間の相互理解を深めることに貢献する」わけで、大いに歓迎したいと思う。」(P242)とし、世界遺産登録に向けてのマスコミを巻き込んだブームの必要性まで説いている(P158)ことでしょう。