本書の白眉は83−86ページにある 著者の佐藤優と 元外務省の東郷和彦のやりとりである。
そこでは佐藤が外交において自称「薄っぺらな論理」を主張しているのに対し 東郷が「理想論」と佐藤が呼ぶ 一種の精神論に近い場所から反論している。
本書を読んで 佐藤優という方は 非常に冷徹な現実主義者だと再認識した。デヴュー作である「国家の罠」は 佐藤が国策捜査という「国家の罠」にはまって 500日を超える留置所暮らしを描いた著書だ。
但し その後の展開を今振り返ると 国家こそ佐藤の「罠」に嵌ったという点が見えてくる。「国策捜査」というような 言葉を 国家から引き出した段階で佐藤の勝ちであったことが今よく分かる。その後の佐藤の大活躍と 外務省の沈黙を見れば 勝ち負けは誰の目にも明らかだ。
佐藤が 嬉々として留置所に入って読書三昧に耽ったのも それが 所与の条件と環境の中で 最も「現実的」であったからに他ならないと思う。
実際 最近50年間もの間 かように長い間 いわば「思想犯」で留置所にぶちこまれたインテリなどは 他にはいなかったわけである。この「留置所暮らし」が 佐藤のカリスマ性を一層高めたことは間違いないと思う。うがって見ると それを分かって 彼は嬉々として留置所にいたのではないか。そう思える。
そんな佐藤が 東郷とのやりとりを 本書に描き出し ある意味で自身を「相対化」している点は 佐藤の誠実でもあると思う。
「現実主義者」という言葉にまつわる悪いイメージがあるかもしれない。但し 僕らは そもそも「現実主義」という思想をきちんと理解する必要がある。それが今回の読後の感想となった。