本書は、100メートル走、重量上げ、水泳、ゴルフボールの飛距離、バスケットボールのダンクシュート、スタティック・アブネアという息を止める競技、ホームランの飛距離、そしてマラソンという8つのスポーツについて、それ以上乗り越えられない究極の限界(パーフェクション・ポイント)がどのレベルなのかを科学的に探るものである。
そして各章にある記録達成の瞬間を想定した未来の挿話も、描写が迫真的で小説のように読ませる出来である。
また記録だけではなくスポーツにまつわる様々な課題〜ドーピング、スポンサー、観客を集めるための恣意的な基準変更、競泳水着など記録向上のための道具の進化など、も取り上げており深く考えさせられる本に仕上がっている。
特に興味深く読めたのは、100メートル走とスタティック・アブネアである。
100メートル走の限界は、ずばり9秒の壁を破った8秒99とする。その予測の積み上げ方が、緻密で科学的である。あのボルトが打ち立てた世界記録9秒58をベースに、スタートの合図への反応、スターティングブロックを蹴る、トップスピードまで加速する、ゴールまで減速せずスピードを維持するという場面ごとに最高の状態を想定して、組み立てていく過程が読ませる。
それから、長時間息を止めるというスタティック・アブネアという常人では不可能な(世界記録はなんと11分30秒という)競技なども紹介されている。ここでは生理学が詳細に取り上げられ脳細胞が死なないぎりぎりの瞬間まで酸素消費量を削減する方法が書かれている。
そして、マラソンの章では、人間の精神力が科学的裏付けを上回ることさえあるとする言葉が印象深い。
記録だけではなく、人間の運動能力にかかる科学的知識とスポーツ全般への興味をかき立てられる好著である。
今年のロンドンオリンピックがまた楽しめそうである。