世界宗教事典は事典の形式をとっておりますが、単なる言葉の解説の羅列ではなく、一人の篤学の士による人類の精神史の壮大な展望です。宗教とは何かという根本的な問いかけに始まり、原始宗教、古代宗教から現代にいたるまで、人類が何をこころの拠り所にしようとしてきたかを、できるだけ多くの史実を提示することによって、読者が自分で考えてもらいたいとの強い願望を感じます。あやふやで偏狭な知識をもとにして宗教が論じられることが多い風潮のなかにあって、貴重な著作です。著者が他界されて20年を経て少しも古さを感じさせません。このような著作では得てして著者の思い入れが強いことが多いのですが、客観的記述に撤しようとする自制心が読み取れます。同じ著者による日本宗教事典とともに宗教に関心をお持ちのかたの一読を勧めます。専門家の目で見れば不十分な記述も多々あるとは思いますが、限られた紙面で精神史を俯瞰するには必要充分な内容です。年表、事項索引、人名索引は親切な試みです。