ブルース・リーは映画スターであり、武術家または思想家として今日までいろいろな側面から語られています。
映画ビジネスに身を置く江戸木氏は映画スターとしてのブルース・リーについてのみ語ります。
これは聞きかじりの知識だけで武術や思想を語らない誠実さ、あるいは映画のプロとしての自負なのでしょう。
江戸木氏の潔さとブルース・リーを語る興奮が全編を通して伝わってきます。
本書の難点は「世界にブルース・リーが足りない」という江戸木氏の主張、あるいは「ドラゴン」という単語に象徴されるものが今ひとつはっきりしないということです。
私たちの生活には何が足りないのか、「ドラゴン」とはいかなる要素なのか、そして私たちは何を獲得すればよいのか、論評であればそれらの点は明確にするべきだったと思います。
答えが映画の中にあるとだけ書かれても、読み手としては何か釈然としません。
もしそれが人間的な資質を指すのであれば、正真正銘のスターであるブルース・リーと凡人の自分を比べても意味がないという気もします。
感覚的なところでは江戸木氏の主張に共感できますが、思い入れがロジックを飛び越えてしまっているという印象があります。
ちなみに本書では、世間でブルース・リーの「黄色いトラックスーツ」が安易に引用されすぎており、時に冗談のネタにされていることに憤りを感じると江戸木氏は訴えます。
その気持ちは理解できなくもないのですが、でもそれならば本書でスターウォーズを想起させるような一文を飾りで挟み込む必要は無かったのではないでしょうか。
本書に多少の難点があるとしても、評価を悪いほうに振ることはどうしてもできません。
それはブルース・リーというヒーローに対する強い思い入れが本書に目一杯詰め込まれており、それは江戸木氏にだからこそ書けたものだと思うからです。
ブルース・リーに興味のある方は手にとってみるとよいでしょう。