英国出身の歴史家で主著が世界的なベストセラーとなった著者ならではのエッセイ集。賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ、を自ら実践しながら、その合間に執筆された現状分析を踏まえた予測分析的内容を含む。評者は著者が勤務するイェール大学にマンハッタンのグランセントラルから、メトロノース・ニューヘブン線で訪ねるので、第3章の「鉄道ファンからの将来提案」などは、著者の批判精神を具体的に思い出しながら、呵々大笑した。ニューヨークとDCの間には毎日昼間1時間置きにデルタ・シャトルという定期フライトがあるが、時間がある限り、マンハッタンのペンステーションからDCのユニオン・ステーションまでAmtrakで移動する方が時間的にも、金額的にも経済的なのは全く同感。だが、その一方で高速鉄道の技術は日欧中が独占し、アメリカにはない。Amtrakの最高時速は、精々120キロ。車と飛行機に依存するアメリカ経済の歪さを鋭利に風刺する。
通貨戦争と戦後金融経済の歪みを整理しても鋭利、世界史の目線は精確な分析と均衡に依存する、その絶妙さは流石である。
序文にある「それにしても現在の日本の指導層は、百年前と較べて、なぜこんなに弱体なのだろうか」と詰問している。現代日本には政治家もエリート官僚もただ拝金イデオロギーに毒され続けているのだが、それは東京発のIHT, NYT, WSJでは読み抜けないであろう。それにしても著者のユーモアとアイロニーはアメリカ人には分かりにく表現が多いようにも感じる。
役者は著者より1年若い同世代で、既に旧知の間らしい。故に解説も面白く、偶然にも著者の故郷を取材で訪ねていたり、鼎談の司会を担当したりして、呼吸が合っている。その成果として、著者が嫌った政治家サッチャー女史の名言を紹介している。「欧州は歴史の産物だが、米国は哲学の産物である」、20−21世紀では名言であろう。