大震災の影響で鬱々とした気持ちを引きずりながら読んだが、そういったものを
吹き飛ばしてくれる爽快な名著だった。パスパ文字も読みこなして文献資料に着実
に基づきつつ、壮大な視野と展望で、まさに「世界史」を描ききる。モンゴル
(とくにクビライ)が世界史の中で果たした役割の大きさを、説得力をもって語る。
ひとことで言えば、「世界を有機的につなげた」ということだ。
文献資料だけでなく、陶磁器の染付技法や竜の文様の確立と拡散、『集史』の挿絵
に描かれている服装や陶磁器の文様なども分析し、当時の文化、技術の交流、社会
状況がどのようなものだったかを、あぶりだす。たしかに、モンゴルに肩入れしす
ぎている側面はあるのかもしれないが、そんな欠点は長所の前には無に等しい。
比べると第2部は、読みにくい。イスラムの根底にシャーマニズムがあることを縦糸に、
中央アジア諸国家の王権授受にまつわる伝説や神話を横糸に、モンゴルがイスラム化
していく過程と、その意義を語る。着想は悪くないし、視点もおもしろいのだが、
いかんせん、取り上げる話題が細かすぎる。
なお、第1部と第2部で表記や記述が統一されていないところがあり(「カン/ハン」など)、
読みにくい。また、底本でカラーだった地図がモノクロになって、字も小さく、読めたもの
ではない。これは新しくおこすべきだったろう。口絵のカラー写真も、本文登場箇所で
参照してほしい。文庫化は失敗だったのではないか。