本書がその一冊である、この世界史シリーズにはひとつの大きな欠点がありまして、残念ながら、本書もその例に漏れません。それは共著書である場合、その執筆分担が不明確であるということです。大体の分担説明はあるものの、まめな本では章、節に至るまでその執筆分担が明示してあるものもある中、本書はきわめて不親切と言わざるを得ません。よくよく読めば、皮肉と機知に富んだ会田氏の文と、学者らしい誠実さの垣間見える中村氏の文章を見分けることは不可能ではないかもしれません。しかしそういう問題ではない。私は、このような一般概説書も学問的な世界と繋げて欲しいのです。詳細な注があってもよいぐらいです。それが、ひとつ歴史学に止まらず学問的一般書であるなら、誠意というものと思います。本書が興味深い指摘を多く含んでいるだけあって残念でなりません。
内容としては、表題は「ルネサンス」とありますが、それに加えて宗教改革も含んだものとなっています。コインの裏表の様なこの不可分の二つの事象を二人の著者が要旨を抑えて分かりやすく説明されており、内容としてはよいものであると思います。特に会田氏の執筆と思われる部分は、今までの文芸の花咲き誇るルネサンス、という印象とは一味違った、この時代の影の部分を合わせての描写と成っているところ、とても印象深いものがありました。いわば、ルネサンスの花の根元、その堆肥をも含めての全体像と言えます。当然その堆肥は盛大に悪臭を放つものですが、しかし取り澄ました、味気ない偉人伝にルネサンスの時代を貶めることなく、その全体像を描き出す、会田氏の皮肉たっぷりのルネサンス観は、痛快さを含んでおもしろいものです。私としては、その皮肉が利きすぎて冷笑的に見えるところがどうも違和感がありましたが、どうしても地味になってしまう中村氏の分担部分との対比が、二つの事象の差異をより浮かび上がらせる効果をあげています。