第二次世界大戦後に急速に発達したレーダーと対空誘導弾は、爆撃機の高高度侵入のリスクを容認しがたいまでに増加させた。
これらの対抗策として、レーダーの覆域をかいくぐって目標に到達する低空高亜音速侵攻という戦術が、以後ステルス技術が実用化されるまでのスタンダードとなった。
世界で初めてこの低高度侵入の専用機として開発され、かつ30年以上も実戦配備されていたという実績から、バッカニアはまぎれもなく傑作機であるといえる。
本書は、日本ではあまり人気のない(評者調べ)イギリス機である本機の個性的なスタイルと技術的な特徴を、コンパクトにまとめている。
全96頁、カラー16頁(側面図3頁含む)モノクロ26頁、塗装図を含むモノクロ図面14頁、残りが本文。
本文記事は開発史、技術解説、実戦記録、パイロットの手になるフライトインプレッションという構成で、フライトインプレッションの翻訳と実戦記録はイギリス機といえばこの人、岡部いさく氏が担当されている(ただし文体は普通)。
実戦配備が長いため、カラーページでは変化に富んだスキームが楽しめる。特に60年代の上面ダークグレー、下面白のいわゆる「ペンギン塗装」は、本機の場合本当にペンギンに見えるのが可笑しい。(ときにP3最上段の写真で、バッカニアとシービクセンの間に機首だけ写っている機体は何だろう?)
モノクロ写真も、もう少しディティールの写真、たとえば主翼折り畳み部のBLCダクトの様子や、非常に堅牢に見えるレバーサスペンション式の主脚などを見てみたかったという不満はあるが、それでも抑揚と陰影に富んだ機体の様々なアングルを見せてくれている。
また、コクピットに関しては前席、後席ともおそらくマニュアルから転載したと思われる写真が掲載されており、電子化が進む以前の凄まじく複雑な表示/操作系が見て取れる。
本文記事も充実しており、開発史(「海賊興亡物語」というタイトル)は本機の開発経緯を十分な紙幅を割いて記述されている(P29の性能諸元表は、エンジンの異なるS.1とS.2の飛行性能が全く同じなど、信憑性に欠けるのが残念)。
ひとつ不思議なのは、ブラックバーン(バッカニアの開発途中でホーカー・シドレーに吸収される)が最初に開発したジェット機で本機のような高い完成度を実現したこと。同社のそれまでの作品からこれだけの技術ポテンシャルを想像することは、ちょっと難しいように思う。その辺に何があったのかを知りたいと思った。
技術解説はジェット艦上機に関して、境界層制御(BLC)を中心とした高揚力装置の解説である。
機体の高速化に伴う後退翼採用の悪影響と、この対策としての高揚力装置の各形式の特徴を詳細に説明している。特に同時期に英海軍に採用され、機体規模の似通ったF-4Kとの比較は、ミッションの違いが設計トレードオフにどのように影響するかが理解できて読み応えがある。
パイロットによるフライトインプレッションも、外見やデータから窺い知れないバッカニアの特徴を教えてくれ、特に技術解説に示された設計上のフィーチャが、パイロットからはどのように感じられるかといったあたりが興味深い。
改めて本書で多数の写真を眺めてみると、バッカニアほど見る角度によって武骨であったり優雅であったりと、様々に印象が変わる機体はそれほど多くないように思う。
その意味で大変楽しめた一冊である。