口をアングリ開けて見入るしかないDVD。これほどの「美」を目前に言葉は無用。シルヴィ・ギエムが初来日した折に、「バレエの先人たちが思い描いた『美』の理想」と言われましたものでしたが、ギエムが未来派建築家の思い描いた近代的な超高層ビルディングのようなダンサーならば、ロパートキナは優美なお城のようなバレリーナです。「バレエ美の理想」とは実はロパートキナだったのですね(断言)。クラシシズムの結晶美を見よ!の世界です。
自身が「美」になれない人間はさまざまな技術と意匠を凝らして外部に美しい物を築きます。自分自身が完璧な美になってしまう女性というのはどんな世界に住んでいるのでしょう(遠い目)。ロパートキナ嬢を見る限り、バランシンの「バレエは女性だ」という断言は真実です。ダンスならば男性的躍動性が独自の世界を作りますが、クラシックの形象美や静謐さは女性にしか作れない。
ちなみに彼女のヴァリエーション解説も素晴らしい。超一流のバレリーナは大変に知的です。ライモンダの解釈は特に目からウロコでした。ヌレエフの解釈と違うんですね。ヌレエフ版でのヒロインはもっと強くて居丈高です。ロパートキナは女性らしい優しさや気品というものをアイロニーなしに語ります。「女らしさ」なるものを嬉々として破壊してきた近現代は何かを非常に間違ってしまったのかもしれない、とロパートキナの美しい動きのひとつひとつを追いながらボンヤリと文明論さえしたくなりました。開放されて自由になっても、それで醜くなったら仕方ないんだよな、と。
ロシアの現状がどうであれ、「美」を生み出せる国は常にどこか強いですね。体制が変わろうが、国債がデフォルトしようが、通貨が売り込まれようが、原油価格が上がろうが下がろうが、不思議とどこか強い国であるロシアですが、そのロシアが「我々の魂」だと誇るバレリーナです。