中篇といって良い短さでコンパクトにまとめられた本書は、中世の騎士道物語の冒険の要素、妖精物語の神秘的な要素がとりこまれ、とりわけ美しいファンタジーに仕上がっています。
登場人物の設定や、物語の細部のエピソードは、けっこう生々しく、おりおり凄惨な場面さえ語られますが、実際に読んだ感じはとても爽やか。
木々の密集した森の中の、むっとするような緑の匂い。小川の水の冷たさと美味しさ。地面をおおうばかりに咲き乱れるちいさな草花の色。読後に思い出すのは、なぜかそういった感覚ばかり。
これは神話や伝説にならった、モリスの簡潔な文体によるものだと思います。
微にいり細をうがった生々しい描写などひとつもない文体は、出来事や事件の合間あいまに読者を立ち止まらせ、読者自身の自由な想像を促します。
わたしたちはそうして立ち止まるたびに、モリス独特の、みずみずしい自然にあふれた物語世界の空気を、存分に味わうことができるのです。
現代の小説も良いけれど、古いロマンスを読むことも、また素晴らしい読書体験です。