「フラッシュメモリ開発で、私には『走りながら考える』という生き方が身につきました」。
この本はなかなか面白かった。半導体業界最前線のビジネス戦記である。著者は東芝でフラッシュメモリの開発に携わり、2007年からは舞台を大学に移して複数の研究プロジェクトを推進中。ビジネスマン時代にはスタンフォード大学でMBAも取得している。
枡岡富士雄氏との出会い。不遇だったフラッシュメモリの黎明期。研究所が閉鎖されても先輩達と陰で研究を続けて特許取得や論文発表を続けたこと。事業が成功したときには多値フラッシュメモリ開発を打ち切った上司達が、手のひら返しで自分達が立役者だと言い始めたこと。技術を生かすためには経営を知ることが重要だと気づいて留学した先で実際に学んだこと。一躍花形に躍り出たフラッシュメモリで工場建設からはじめるプロジェクトを経験。アップルやインテルやサンディスクなどとの交渉。アメリカでの特許訴訟。失敗したDRAM事業から多くの人が異動して年功序列で上司になり、その人たちが安全第一の管理を始めたためにフラッシュメモリ事業の成功を支えてきた中核の人達が全て会社を去ったこと。
1年目が勝負と思い、パソコンも机も無い状態から大学で立ち上げた研究室。分野と分野の間の隙間を埋めて応用研究に狙いを定めて得た成功。実績が信頼を生んで新たな予算を得るようになり次々と新たなプロジェクトを実現させる。
ハイテク業界の最先端を走り続けてきたエネルギーが行間から溢れている。時折披露される自身の考えも実戦経験に基づいたものが多くて妙にリアルである。常に最新技術を競う産業の様子。韓国や台湾の台頭。日本の産学協同の問題点。No.1を狙わなければならない理由。MOT(技術経営)の重要さ。フラッシュメモリについてやさしく解説したコーナーもある。