本書はヴォリューム的には物足りないかもしれない(2時間あれば読める)が、数学の素人である小川氏に対して、抽象的で何の役に立つか分からないが美しいとしか言い様がない数学の諸定理と証明の魅力およびその美を発見した数学者の劇的な生涯のさわりを実に熱く語る藤原氏と、小説家の勘で打てば響くような感想を述べ、質問をする小川氏という、分野は異なれど美という価値観を共有する二人だからこその対談が実に楽しい。友愛数、完全数と江夏の背番号の話など、傑作「博士の愛した数式」完成に至る舞台裏を覘く面白さもある。醜い定理の紹介も興味深い。国民性と数学の発展の歴史の関係もコンパクトにまとまっている。俳句に代表される美的感受性に富んだ日本人数学者の偉業は、日頃創造性に欠けると自己嫌悪に陥りがちな日本人に自信を与えてくれる。
フェルマーの定理の証明に関する説明等、抽象的すぎて藤原氏の自己陶酔に終わり我々素人が共感しにくい箇所があるのは残念。しかし、実際に式で説明される定理は、自然数の和、2乗及び3条の和、あるいは素数の個数は無限であること等証明つきのものも、n以下の素数の個数を求める式、なぜかπが出てくる無限級数の和、ビュッフォンの定理のように証明は省略されているものであっても、複雑な計算の結果が簡単な解に収斂することに驚く。未解決だが6以上の偶数はすべて二つの素数の和で表せるというゴールドバッハの問題には素数の世界の底知れぬ深淵を覘く興奮を覚える。そこに神の隠していた数学の面白さというか美がある訳で、私などは感動に震える。そのような数学の魅力、あるいはそれを生み出した数学者とはどんな人たちかに関心を覚えた人は、藤原氏の「天才の栄光と挫折」「心は孤独な数学者」等に読み進めばよいだろう。本書はそれら著書と「博士の愛した数式」の格好の架け橋になる本である。