このDVD版の発売は、とてもうれしい。
まさか平成の今、本作に再見できるとは思っていなかった。
本作は、若い頃に封切り直後の単館ロードショーで見た。
その後、一度TVで放送されたのを見た記憶がある。
名画座などでは、ときどき上映されていたようだが、その後は見る機会がなかった。。
もちろん原作は坂口安吾の同題作品であり、本作はそれをかなり忠実に映画化したものだ。
とにかく原作は登場人物が多い。
最初の2ページでほとんどの人物の名前が出てくる。
しかし小説では、その区別をつけるのが名前だけだ。
だから、かなり苦労して読んだものだ。
映像化されると、その区別が顔や声でできるので、かなり楽になる。
そして各人物のキャラクターも、ヴィジュアル化ですんなりと頭に入ってくる。
何よりATG作品なので、ミステリ映画なのだが画面が美しいというか、安定している。
これは高林「本陣殺人事件」とも通じるものがあるが、見ていて不安になることがない。
下手な映画は、見ていて気分が悪くなるんじゃないか、という不安がつきものだ。
そして何より、配役がまたきまっている。
小坂一也の巨勢博士も、登場当初は若干の違和感もあったが、なかなかいい味を出している。
その他の俳優陣も違和感が少なく、けっこう原作のイメージを損なわない。
だから、原作を既読の私が、本作はすんなりとストーリーにはまることができた。
犯人とその真相にいたるロジックもまた、原作通りにキチンと作られている。
つまり、ありがちな妙なオリジナリティーが、本作の場合はほとんどないということだ。
これは、原作を知っている者にとっては、実にうれしいことだ。
日本のミステリ映画というと、本作と同時期に制作された市川版「横溝金田一シリーズ」が有名だ。
しかし本作は、それに一歩もひけを取るものではない。
いや、映画の出来をトータルで評価したら、完成度はこっちのほうが上だろう。
俳優陣も熱演だし、原作の持つゲーム性、退廃的なムード、悲喜劇性を、うまく演出している。
これは原作を知っている人にも知らない人にも、お勧めの傑作ミステリ作品だ。