「なぜ重大ミスは起きたか?」。警察キャリアである著者の行政官らしい緻密かつ明瞭な分析が楽しめるミス研究の第3弾。報道では、「当事者が悪い」「管理体制が悪い」とエピソードを野積みして終了…となる組織の重大ミスについて、本書はミスが起こり、発覚するまでの長い道のりを示し、そこに至るまでに多くの人がかかわっていることを強調する。担当者、ミスの火元だけではなく誰かか気づけば…なのに結局ミスを見逃す組織体質がミスを生む、著者は文末でそう結論づける。
扱っているミスの多くは堅実ではあるが読ませる分析で、ミスを起こした組織のゆるみを指弾するが、シンドラーエレベーターや赤福については、一方的な断罪はしていない。エレベーターは一義的には保守業者のミスで、エレベーター業界の特異な業界慣行にも要因があることを指摘した上で、シンドラーの「態度」という本来的ではない要因で、「主犯」ではないシンドラーが火の粉をかぶることになったと見る。赤福は、ミス事案について、事前に法令に適合しているか保健所に確認をしたのに、管轄外の法令に保健所が何も回答しなかったために、合法と勘違いしてしまったという運の悪さもあるという。
文末で、著者はもう一つ重要な教訓を述べる。過去の失敗も、不適切な記述がされれば誤った教訓を引き出し、有害な結果をもたらす可能性がある、というものだ。日露戦争旅順攻防戦について、正攻法を否定し賭博的な作戦をよしとする、誤った戦訓が参謀教育の方針となったと、著者は考える。旅順攻防戦の正否、乃木・伊地知コンビの妥当性は、坂の上の雲のイメージが強い自分個人としては何とも言えない部分があるが、著者の考えも一理あると思う。本書はこのように、面白い事例分析だけではなく、ミスを学ぶ上で、参考になる教訓が多く含まれていると思う。