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不死の人 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
 
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不死の人 (白水Uブックス―海外小説の誘惑) [新書]

ホルヘ・ルイス ボルヘス , Jorge Luis Borges , 土岐 恒二
5つ星のうち 4.0  レビューをすべて見る (2件のカスタマーレビュー)
価格: ¥ 1,103 通常配送無料 詳細
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商品の説明

出版社/著者からの内容紹介

 ホメロスの叙事詩、ガウチョの古典的歌物語、『千夜一夜』の綺譚などを変容させ、一種の迷宮物語の世界に織り上げたボルヘスの最高傑作。寓意と象徴にみちたこれらの物語は、同時に、フィクションに対する根源的な批評をうちにひそめた《メタフィクション》の先駆的な作品となっている。

内容(「BOOK」データベースより)

永遠の生命を求めて砂漠の中の不死の人々の都にたどりついた古代ローマの将軍の怪奇な運命…ギリシア・ローマ・バビロニア、現代ドイツ、アルゼンチンなど時間と空間のさまざまな迷宮の中に人間の不条理な生を描くボルヘスの傑作短篇集。

登録情報

  • 新書: 257ページ
  • 出版社: 白水社 (1996/08)
  • ISBN-10: 4560071144
  • ISBN-13: 978-4560071144
  • 発売日: 1996/08
  • 商品の寸法: 17.4 x 11.2 x 1.4 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.0  レビューをすべて見る (2件のカスタマーレビュー)
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25 人中、23人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By カスタマー
形式:新書
1950年代に出版された短編集。「伝奇集」に収められた作品群と比べると、物語性が強く、 比較的読みやすいものになっていると思います。「伝奇集」と「プロディーの報告書」 の中間に位置する作品といったところでしょうか。「ザーヒル」「アレフ」がお薦め。
このレビューは参考になりましたか?
1 人中、1人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
形式:新書
もしもあなたが文学マニアならば、
遅かれ早かれ、かれの作品を手に取る日が訪れることことでしょう。
ボルヘスは、文学宇宙の北極星。
あらゆる星たちのなかでひときわ輝き、その星を中心に、すべての星座が輝く、
そんな星です。

ホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges、1899年〜1986年)。
かれは詩人であり、アンソロジストであり、
人類史上のあらゆる文学を自在に引用し、
おもいがけない脈絡をあたかも自然に導き出し、
魅力的な文学講義をおこなう、
文学愛に満ちあふれたペダンティックな語り手であり、
そして短篇小説作家でした。
かれの数ダースの短篇は、
無限、迷宮、不死、円環、あるいは虎、そして薔薇、
あるいはタンゴの流れる酒場で繰り広げられる
荒くれ男たちの決闘が描かれています。

作品集は、数えように拠っては膨大にありますが、
大事な作品集は、以下の4冊。
『伝奇集』(原著1944年 岩波文庫)、
『不死の人』(原著1949年 白水Uブックス
および『エル・アレフ』の表題で、筑摩ブックス版もあります)、
『ブロディーの報告書』(原著1970年 白水Uブックス)、
『砂の本』(原著1975年 集英社文庫)。

原著出版年を見てわかるとおり、
前期と後期のあいだに21年もの開きがあります。
実は、そのあいだにボルヘスは(遺伝に拠って)視力を失い、
盲目になってしまいます。もっと言えば、
かれはやがて中年期に自分の視力が失われてゆくだろう、
という昏い予兆とともに思春期以降の人生を生きてきたともいえます。
文学好きの、読書好きのボルヘスの読書のよろこびは、つねに昏い予兆を響かせてもいました。

最初期の短編集『伝奇集』のなかに、ボルヘスが生涯にわたって追求する重要な主題が、
すべて出ています。
冒頭に収録された『トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス』。
<人間の思考=観念は非在のものであるにもかかわらず、
複製され増殖してゆき、やがて現実世界を浸食し、やがて崩壊にいたらしめる>。
まさにこれこそが、ボルヘスの主題群の中心です。
そう、<肉体および現実世界は消滅を運命づけられているけれど、
対照的に観念の世界は永遠である。>これがボルヘスの生涯にわたるステートメントでした。

同じく『伝奇集』収録の『バベルの図書館』もまた、ボルヘスの代名詞。
<無限を孕んだ迷宮としての図書館>というイメージ。
ボルヘスにとって、書物こそが、図書館こそが、永遠の息づく棲家でした。

『不死の人』のなかにあっては、
運命に翻弄される人間、というような主題が増え、
多くは暗いトーンに覆われています。
冒頭に収められた短篇『不死の人』は、こんな話です。
古代ローマの軍人だった主人公が、
砂漠の彼方に不死の人々の住む秘密の都を探しに行こうとおもいたつ。
いくつもの都市を訪ね、いろんな人々を目撃し、いろんな体験をした。
ようやくたずねあてた不死の人たちの都は、
思索に閉じこもった人たちの都のまたの名だった。
やがて主人公にも死が近づく、最後に残されたのは、言葉だった。
いかにもボルヘスらしい主題でありながら、
同時にボルヘスのただならない実存の不安定をもまた感じさせます。

実は、この短編集が出版された1949年は、ボルヘス50歳。
すでにペロン軍事政権が発足して3年目です。
ボルヘスはペロンに反対したため政権成立とともに、
ブエノスアイレスの場末の市立図書館の司書の職からも追われてしまいました。

同書収録の短篇『神の書跡』にも、ボルヘスが被った受難の影が差していて。
<カロホムの神官が、征服者の手で地下牢に閉じ込められ、
苦労の末に、ジャガーの紋章のなかに神が遺した魔法の一文を読み取る>、
そこには、自分を陥れたペロン政権への呪詛と嘲笑が聞こえてはこないでしょうか。
この短編集のなかにの<運命><復讐>という主題は、不穏な輝きを備えています。

しかしそんななか、これもまた同書収録の短篇『アレフ』には、
センチメンタルでロマンティックな魅力があります。
ボルヘスのなかで数少ないラヴリーな魅力を放っています。
男は、愛する美しい妻ベアトリスに先立たれ、
哀しみと憂鬱のなかにいます。かれは文学者。
死んでしまった妻のいとこにいかにも俗物な、下手くそな文学好きがいます。
男は義理でその男のヘボい作品につきあわされたりします。
そんなことがありつつも、地下室で男は
「地上の一点でありながら世界の全てを包含する一点」を見つけます、
それはほとんどパノラマのように世界のすべてが畳み込まれていました。
もちろん男はそこで、死んだ妻に遭遇します。なんて感動的な体験でしょう。
しかし物語は淡々と終ってゆきます。
「われわれの精神は穴だらけで、そこから忘却がしみこんでくるのだ。
そしてわたし自身、寄る年波に侵蝕されて、
いまではベアトリスの面影さえ歪めたり、ぼかしたりしているのである。」

その後、ボルヘスにとっては憎いペロン政権が倒れ、
新政権樹立後は、うってかわってボルヘスは国立国会図書館長になったり、
アルゼンチン文学アカデミーの会員になったりして、輝くばかりの名誉を獲得します。
しかし、そのときボルヘスは、もう視力を失いつつありました。

後期は、すでに盲目ですから、作品は口述筆記に拠って書かれています。
そのせいもあって、おはなしのおもしろさ、ボルヘスらしさが、
わかりやすくシンプルに前面に出てきています。
またボルヘスはすでに国際的成功も名声も得ていますから、
大作家の余裕が感じられます。最晩年の短編集『砂の本』の各短篇には、
ほとんどビギナーズ・ガイド・トゥ・ボルヘスという趣があります。
ここでボルヘスは、あたかも自分自身のカリカチュアを描いているかのようです。
ただし、その線は歌うようで、なんとも幸福に満ちています。

ボルヘスは書きました、言語は引用のシステムである。
もしも凡百の著者がこんなせりふを書いたところで、いたってのどかなもの。
しかし、ほかでもないボルヘスがそう書いたとき、
そのせりふはにわかに不穏な輝きを帯びてきます。
そのせりふは予言のように響きます、
ありとあらゆる文学作品がボルヘス宇宙のなかに吸い込まれてゆくその予言のように。
しかも予言は的中します、ボルヘスは引用に拠って、
自分の作品のなかに既存の文学を招き入れ、
その作品を新たな文脈に置き直し、別の輝きを与え、
それと同時にいったんボルヘスの作品を読んでしまった者には、
まるであたかもボルヘスこそがそこに引用された作品の真の作者であったかのような
錯覚を生み出します。
ダンテも、セルバンテスも、シェイクスピアも、チョーサーも、
真の作者はボルヘスであったかのような! 

ボルヘスは、文学宇宙の北極星。あらゆる星たちのなかでひときわ輝き、
その星を中心に、すべての星座が輝く、そんな星。
文学マニアにとって幸福とは、あるいは、
ボルヘスの術策にはまることのまたの名かもしれません。
いいえ、それ以外に、文学マニアの幸福などあろうはずがありません。
いや、それはちょっと褒めすぎかも。
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