シュヴァンクマイエルの名前と、アリスというテーマと、厚紙のハードケースに収められた大判本の外観から、書店で既に稀覯本の雰囲気を漂わせているように感じ、手に入れずにはおれませんでした。
チェコの人形アニメ、粘土アニメの映像作家、というより唯一現存すると言って過言でないシュルリアリストの末裔ヤン・シュヴァンクマイエルは、88年に「アリス」を長編映画の第一作目として手掛けています。本書はその映像版と連動するものではなく、純粋に06年の新作であり、初版の挿絵にオマージュを捧げつつ、原作に新たな挿絵を提供するということに真っ向から取り組んだものです。
挿絵は全部で20点。マックス・エルンスト直系の錬金術的コラージュは、他のシュヴァンクマイエル本や05年に葉山美術館で開催された展覧会などでも確立されていた、リアルでグロテスクな作風です。
シュヴァンクマイエルに馴染みのない方にとって、彼の毒気のある鬼才ぶりは好き嫌いがはっきり分かれると思いますので注意して下さい。いたいけな子供に読んで聞かせるのが目的ならば、他の相応しいアリス本をお勧めします。
特に文章部分は、大判本ながら2段組の比較的小さな活字で分量が多く、一度原作を読んだことのある場合には今更読む気にはならないかもしれません。
逆にシュヴァンクマイエル好きにとっても、予想通りのアプローチというか、ちょっと新鮮味には欠けるのではないでしょうか。前述したように、シュヴァンクマイエルとアリスの世界観は相性が抜群なだけに(もはや彼のライフワーク?)、思わずコレクションしておきたくなるというくらいでしょう。
彼の職人的な謙虚さの由か、はたまた前衛芸術家が晩年に陥る古典回帰の傾向か、原作を重んじながら新たな解釈を加えるのが主旨だとは言え、もっとコラージュを主体にした絵本のような構成を期待するのは贅沢というものでしょうか。