天使のようでもあり悪魔かとも思えるひとりの不思議な少年が、時と場所を超えて現れ、欲望や執着心、自尊心、愛と憎悪、生と死にまつわることなど、我々“人間”という存在の本質について問いかけてゆく連作短篇集。心の奥底にしんと触れるものがある、非常に味わい深いシリーズですね。二、三日前にふと出会って、たちまち既刊の7冊を一気読み。最新刊の本書も、読みごたえがありました。
中世ヨーロッパの魔女狩りを題材に、人間の醜さ、弱さ、そして気高さを綴った「聖フランツ 1」〜「聖フランツ 4」。往年のミュージカル女優の歌と踊り、その魅力の忘られぬ輝きを描いた「マリー・ロンドン」。以上二篇が収められています。
これまでのシリーズ作品で最も長い分量となる、二百頁近い紙数を費やした前者、「聖フランツ」の物語。途中まではもたもたしている感があって、正直、あまり面白くなかったのですが、冒頭へと繋がっていく決死の行動から話が大きく動く後半、「聖フランツ 4」の章からがよかったですね。かなり性急な持って行き方で、それまでの話の流れからするとぎくしゃくした印象も受けましたけれど、音楽で言えば“コーダ”にあたるラスト数頁、とりわけラスト・シーンのインパクトがなかなか凄いんだな。泣き笑いしたくなっちゃうような、複雑な気分に駆られたこのラストは忘れ難いです。
この「聖フランツ」に比べれば、分量という点では遥かに少ない後者「マリー・ロンドン」ですが、これ、ええ話やあ。不思議な少年が登場するシーンを境に、話の前半と後半とで、マリー・ロンドンのイメージががらりと変わります。いや、マリー・ロンドンだけじゃない。ある人物のイメージも、話の前・後半で大きく変わるんです。すれ違っているようで、実は深いところでふたりの心は繋がっていたんだなあと、目頭が熱くなりましたねぇ。人と人の出会いを描いて、小粒だけどキラリと光る作品。