TRONの坂村健による、科学と社会の今後をどうしてゆけばよいか、の提言である。
毎日新聞の連載コラムを、東日本大震災を契機に書籍として加筆してまとめたもの、という位置づけだが、別に震災がなかったとしてもこの考え方の提言は意味があるように思える。特に冒頭数章あたりは、人類は科学だけでは生きられないが、しかし人類は既に科学なしでも生きられなくなってしまっていて、それらを天秤にかけていくことの重要性を説く。
現代社会を構成するわれわれ自身が、どのように考え、どのように判断し、どのように行動するべきか。その考えや判断の基準はどう捉えればよいのか。そのような問いかけが、時には具体的な情報サービスを例にあげ、あるときは人間の歴史からの教訓をもとにして語るのだ。
前書きで坂村氏本人も述べているが、氏自身も「TRONからの発想(1987)」のころに比べて経験値が大幅にあがっていて、技術一辺倒の話になっていないところもポイント。技術vs感情、のような単純な○×的な表現も抑え目で、読者にわかりやすい具体的な考え方の指針を与えることもしない。あくまで、われわれ市民がみんな考えていなければいけないことの方向性を述べた、という形だ。
もっとも、このタイトルで坂村が何を言おうとしているのか、などと期待して読むとやや肩透かしを食う。あくまで一般紙の連載コラムの加筆であることを念頭において読むべきかもしれない。