この映画に原作や脚本は存在しない。マイク・リーの『秘密と嘘』同様、大まかなあらすじのみで後は役者による即興的な演技にまかせた作品だ。プロットや演出といった従来の映画的要素を期待してこの作品を見ると“つまんない”ということになるのだが、むしろスクリーンから伝わってくる緊張感とか生っぽさとかいった“現場の雰囲気”を味わうべきで、その意味ではかなりアートに近い1本であろう。
友人の結婚式に参加するためリスボンからパリを訪れた建築家の夫ニコラと写真家の妻マリーの夫婦。宿泊するホテルのベッドを別々にするほど二人の関係は冷め切っていて、友人の前で堂々と“離婚宣言”をする始末。そんな離婚危機を迎えた夫婦のたんたんとした会話を、据え置かれたカメラが長回しで静かに映し出す。同じ即興を得意とするカサヴェデスの動き回るカメラと比べると、諏訪監督の役者たちに対する信頼感が勝っているために好感がもてる。
かといって映画的演出が皆無かといわれればそうでもない。登場人物の心境が変化する瞬間に<ブラックアウト>を挿入したり、すでに夫婦に訪れていたはずなのに気づかなかった危険サインを<赤信号>で表したり、夫婦間の無意識下のつながりを<咳>で表現したシークエンスなどには、諏訪監督の心憎い演出が光っている。特に、「別れるの、別れないの、どっちなの」と観客に気をもませるだけもませるラストシーンの<長ーい間>が秀逸だ。
最新作『パリ・ジュテーム』ではすっかりビノシュ節にくわれている短編を撮っていた諏訪監督ではあるが、本作品ではヴァレリア・ブルーニ・デデスキなどの俳優陣との相性の良さを感じる。