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その歌舞伎町を舞台にした本書ですが、内容に目を転じれば、あらゆる人間関係において信頼関係というものが一切成立していないことに驚かされます。北京、上海、台湾、香港。故買屋、マフィア、移民の長。あらゆるルーツを持ったあらゆる身分の人間が、ビジネスのため、サバイバルのため、次々に他人と手を組みして裏切っていきます。善意というものがまったく存在しない世界なのです。
そのような冷酷な世界を生き抜いていく主人公健一にも当然善意はありません。台湾人と日本人のハーフであり、誰の愛も受けたことがなく、ゆえにその本質として決して誰も信じることのない彼にとってのすべては「生き残ること」。生き残るために自分に関わるすべての人間を欺き利用する健一には救いの要素というものが全くありません。
冷たい舞台に冷たい主人公。にも関わらず文脈から熱い魅力が吹き付けてくるのは、この両者が幸福に融合しているからでしょう。歌舞伎町という舞台だからこそ、健一が繰り広げる「弱者の闘い方」は矛盾混じりの共感を呼び、また健一という主人公の視点だからこそ、偽りだらけの歌舞伎町に真実の魅力が垣間見えてくるのです。
「舞台」と「主人公」という二大要素がこれほど力強くて、面白くない訳がありません。本作品が90年代ハードボイルドの金字塔に位置付けらているのも納得です。
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