生物はどのように種の保存という「保守」と進化という「革新」を両立させてきたかについて、遺伝子複製のメカニズムに潜む両義性をベースに発展させた不均衡進化論について一般読者向けに解説している。
評者は本論について特別知識があるわけでもないし、その学術的意義について何か言えるものでもない。しかし、本書は学術書ではなく一般向けで脚注もつけていないので、普通に読み進めることができ、実際、評者は楽しんで読めた。
進化論に関してはダーウィン以来さまざまな議論があり、評者の理解するところ、特にDNA発見以降は、ミクロ的遺伝子論とマクロ的集団遺伝論とをどのようにつなぐかが大きな課題だったと思われる。遺伝子論では木村資生の分子進化の中立説の貢献があり、マクロではグールド、エルドリッジの断続平衡説が大きな論争を起こした。本書で提示されている不均衡進化論はこうした伝統に立ち、ミクロとマクロの間のミッシング・リンクを埋める重要なピースとなるものと思われる。
すでに述べた通り、本書は一般向けに書かれているので、高度な知識を前提とせずに読めるように遺伝子などについての基本的な事項も分かりやすく説明されている。DNA複製自身に保守と革新の両立のメカニズムが備わっていることが本論の中心だが、納得しやすい形で書かれている。
進化論は生物学の分野を超えてさまざまな分野で比喩的にも使われているが、一部には俗流進化論として間違った使われ方もしている。これらは進化論の一部を単純化して適用することで自分に都合の良い結論を導く道具としている。本書を読むと進化論の議論の深さと多様性が分かり、このような間違った使い方に対する目を養うこともできる。エキサイティングな理論を分かりやすく解説した本書の良い副次的効果といえる。