なかでも、やはり目を引くのは、数々の悪食の武勇伝。カメムシの幼虫や、カラスの「ろうそく焼き」、羊の血の腸詰など、本書には、想像を絶するメニューが多数紹介されている。中国では、20年ものの自家製蛇酒の、あまりのアクの強さにのたうち回り、韓国では「ホンオ・フェ」という発酵させたエイのアンモニア臭に涙する。その光景は、まさに著者の言葉どおり「不味さとの対決」といえる壮絶さである。しかし意外にも著者は、その不味さを、新しい食の発見として楽しんでいるから驚かされる。
本書で、怒りをもって「不味い!」と断罪されているのは、そうした珍料理に対してではなく、ビールやカレー、刺身にラーメンと、私たちが普段から食べ馴れている食品に関してだ。著者は、化学調味料を多用するデパートの惣菜に不快感を覚え、冷凍保存した白焼きを平気で出す鰻屋の「職人根性の欠如」を嘆く。そこから浮かんでくるのは、あまりにも歪んでしまった現代社会の食生活であり、それを平然と受け入れてしまっている私たちの心の貧しさなのである。(中島正敏)
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また、この人は科学者だけど食いしん坊でもあるので、科学的(生物学的・化学的・生理的)な要素だけでなく心理的な要素もきっちりフォローする。食材的には完璧な蕎麦でも、それがバーコードのように寂しい量とレイアウトであると心理的に美味しくない。食通は「量より質が大事」と言うかもしれないけど、俺たちは素人なんだから量も欲しいじゃん? 小泉先生は「量が少ないのは不満」と、俺たちの側に立って物を言ってくれてる。うれしいよね。
この人は名文家でもある。「俺はもう諦めも早く、心で泣いた旅だった。」とか、爆笑しました。文として意味は通らないけど気持ちはものすごく伝わる。
いやもう、空前絶後の名著・名批評だと思います。発売直後は無視して今ごろ読んですみません。でも良い本の賞味期限は長いから、いつ読んでも旬ですよ。読書欲を満たし食欲をそそる一冊です。
但し、この本の真価はそこに在るのではない。10年かけて汚染された湖が、生水の飲める湖に生まれ!変わったという、フィンランドのパイヤンネ湖の挿話一つ取っても良い。これは、文明や合理性や商業主義、一過性のグルメブームで踏みにじられた、現在の食文化に対する強烈なカウンターパンチの書でもあるのだ。ここの点においても、本書は小泉教授のこれまでの著作群に連なる傑作エッセイと言える。小泉ファンのみならず、食に関心ある者(つまり大抵の読み手)ならば、必ずや得るところ大であろう。
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