この本は戦国時代末期に生まれ、徳川家光にも敬われ、仏教に生きた沢庵の著作、「不動智神妙録」、「玲瓏集」、「太阿記」の3つを収めています。
「不動智神妙録」は柳生但馬守に、剣を例えにこころのあり方について説いた本です。「一つのことにこだわって心を留めると思うように進めない」と言う言葉はなるほど、と思わせます。
「玲瓏集」は物の本質に言及することで自己とはなにか、自己の本質とはなにかを、「太阿記」は、剣の極意を通して人間はいかに生きるべきかを説いたものです。
此の3つの中では「玲瓏集」の根源的な所に惹かれました。「人は欲でできていて、この欲が何をするにも原動力である」「無機物のみが物でなく、人間も物である、物は常に入れ替わっている」「一つづつでも明らかにしていけば全てがわかるだろう」などというのはどうしてもギリシャの哲学を想起してしまいます。ギリシャに比べれば時代は随分遅いですが、同じような考えに至った日本人もあったのですね。
その一方、「神はすべての神を敬わなければいけない」とある部分などにはやはり彼も仏教者である前に日本人であったのか、と思わされました。
食べたことはあっても、それに名前を残した沢庵和尚がどんな事を言った人だったのかは知らない人のほうが多いかもしれません。本書は原文も難しくはないですが、訳文もついているので読みやすくなっています。仏教書としてではなく、哲学書として読める本です。何百年前の日本にもこんな考えの人があった、ということはもっと知られてもよいと思います。