ここに来て、立ち飲み、大衆酒場って盛り上がってるけど、本書初版の1998年は、そんなブームはまだ一般化してなくって、その点においてこの「下町酒場巡礼」の存在価値は高い。一種、バイブル化してる。当時、文春B級グルメって文脈と、danchu居酒屋グルメって文脈はあったけど、立ち飲み、大衆酒場ってとこまでは到ってなかった。まぁ森下賢一の「居酒屋礼讃」はあったけど。いまの立ち飲み、大衆酒場ブームってネットの力が大きいよね。ほら、誰もがグルメ評論家みたいに金に糸目を付けずに高い酒、肴飲み食いできる訳じゃなし、逆に小遣いの範囲で工夫して飲むってののが楽しい訳じゃない?そこら辺の「こんな安くて旨い店があるよ」って、ちょっと人に語りたくなる欲望ってのがネット、ブログで顕在化したっていうか。まぁ、ほんとに良い店は教えたくないし、ネットで紹介されてる店を訪ねる時も、場を荒らさない謙虚さはいつも肝に銘じないといけないけどね。
この本のいいところは、太田和彦とかなぎら健壱ってシンボリックな人ではなく、酒好きの無名のライター達がほんとに大衆酒場巡りを楽しみながら作り上げている点だなぁ。あと、酒場なんて基本的な構成要素は変わらないはずなのに、どの店も個性豊かで飽きないって言うか。
「常連客と主人がべったりくっつき小さなサークルをつくって一見の客を懐に入れない居酒屋は、いくら酒や肴が良くてもいただけない。店の者と客には、ある種の緊張感が必要なのではないだろうか」なんていう了見、「立ち飲み屋のいいところは、不安定さにある」なんて見立てにも共感する。
あと、本書のモノクロームの写真がとてもいいんだなぁ。色んな人々が集う猥雑な場でありながら、だからこそ神聖で大切な場所であるってのが感じ取れるんだよね、この白黒写真によって。