私は諸永裕司からはじまる近年の”下山事件本”をすべて読んできて、この著者の単行本も読み、背後の黒幕は吉田茂政府だとの主張を、驚きとともに新鮮な提示として読んだ。ただ論理の運びからは、やや記述が錯綜し、ごたごたし、論旨が繋がっていないと感じる点もあった。しかし今回の「増補完全版」と銘打ったこの本を読んで驚いた。上記の、恐らくこの本の最大の主張である箇所が、前記05年単行本と今回の増補版とで、下記のように正反対になっているのだ。
05年刊本では「ここに一つの図式が浮かび上がる。日本政府は、外資から国鉄を守るため、下山総裁を抹殺したのではなかったか」。
今度の増補版では「ここに一つの図式が浮かび上がる。日本政府は、外資の導入を加速させるため、下山総裁を抹殺したのではなかったか」
これはあんまりではないか。よしんば考え抜いた結果、結論をこう変更したというのなら、著者がその旨をあとがきでもどこでも断わるべきではないか。そうでなければ、読者に対し不誠実だと思うのだが。