五編のオムニバスドラマで、上野樹里さんがまるで違ったキャラクターを演じ分けているのが見事。見応えあり、お奨めです。桜井亜美さんが脚本を書いた第五話が、ある意味では一番起承転結のメリハリがあって、ソツなく勘所とツボを押えた構成でジーンとさせてくれますが(同じ桜井亜美さんが構想したせいか、名画『虹の女神』のあおい役を思い出すところもありました。これは個人的な感慨ですけど......)、個人的には第二話、第三話が特に好きです。
第二話、何もかもドツボ状態に嵌ったうえ、不運にして深夜のエレベーターに閉じ込められたアニメ動画マン。次第に取り乱し、遂には疲れ果てた彼女が、仕事で短く縮まった鉛筆で壁に「あるもの」を画くときの、樹里さんのみせる、荒んで疲れた、そして悲しい表情。そして、ひたすら空しく、救いのない展開のなかであっても、かすかな希望の光と余韻を残す様な終わりの展開は、まぶしく心に残ります。
また、第三話では、樹里さんが扮する声優志願の美鈴と、彼女を慕っていた小学生の少女の二人の微妙な人間的成長を描く、繊細で細やかな筆致がとても素晴らしいです。ここでは樹里さんが巧いのは言うまでもないのですが、まもなく中学へあがろうというボーイッシュな少女に扮した沢木ルカが、思春期の微熱のように美鈴に寄せる淡い想いや痛みを演ずる巧さに脱帽します。
テーマの「鞄」。それぞれの短篇ドラマで、物語を主導するモティーフとして、異なった発想と意味を具現化しているところが面白かったです。それにしても、上野樹里さん、『のだめ』のヒットも一ファンとしては嬉しいですけど、あまり「コメディエンヌ」という一面的なイメージ(さらには「のだめ」のイメージ)に縛られずに観てもらえるように祈っています。樹里さんは、一口に「コメディー」というジャンルを演ずるときでも、役に応じて、顔から全然違った人物になりきれる天才的な人です。コメディー、シリアスを含めて、樹里さんのもつ多彩な持ち味を、もっといろいろな人に見て欲しい。その意味では、とても佳い、なるべく多くの人に楽しんで欲しい一枚だと思います。