上田敏博士の訳として良く知られているものは、カアル・ブッセの「山のあなた」や、ヴェルレーヌの「落葉」のようにロマン的・叙情的な詩である。しかし本書を読むと実に様々なタイプの詩が、上田敏博士によって翻訳されたことがわかった。例えば、フランソア・コペエの「礼拝」はサラゴサの戦いに従軍した軍曹のやりきれない思いをリアリスティックに謡ったもので男性的な詩である。エミール・ヴェルハーレンの「時鐘(とけい)」は時計を描写した事物詩とも言うべきものである。ランボーの「酔ひどれ舟」もある。
喜怒哀楽を詩作という行為によって芸術にまで昇華させた作品群が、絢爛たる語彙と五七調をベースとするリズムで見事な日本語に変換されている。日本の近代詩の原点と言えよう。