1842年の開港から、1949年の紅軍占領に至る上海の歴史を国籍別に追うという、興味深い趣向の本。来年には万博も開こうかという、今の上海の方がはるかに多国籍で繁栄しているのに、本書から見る上海は、現在の上海が霞んで見えるほどの繁栄と自由を謳歌していたように見える。
租界設置当初、イギリス人はイギリスの生活をそのまま持ち込み、競馬場、社交クラブ、貿易商…など上海租界のイコン的な設備を次々と作り上げた。その後入ったアメリカ人は、ホテルやダンスホールなどいかにもアメリカな施設を作る。難民として入ってきたロシア人やユダヤ人は、生活に根付いた商売をしながらも、次第に音楽やバレエなど豊かな文化で上海に影響を与える。本書は、資本主義と自由が貫かれた上海のまばゆい繁栄だけでなく、「支配階級」にもかかわらず、食い詰めて本国を出て下層な職業を勤める白人が、繁栄を見上げる複雑なまなざしも多く引用、叙述している。
本書を読むと、上海租界の経済的文化的な豊かさや多国籍さは、世代を積み重ねて形成されていったことがわかる。今の上海は中国で一番先進的な都市で、多様な国籍の人が来ていると言っても、中国の価値観で回っていることに変わりはない。中国人でなければ上海に骨を埋めたり、子々孫々暮らす訳ではないから、それぞれの国の文化が開くわけもない。租界を肯定するつもりは全くないが、特定の価値観を押しつける支配者のいない、上海租界の自由さに憧れを感じた。
租界文化の記述中心だが、政府とも言える工部局、内閣といえる参事会など、独特な統治システムもある程度解説されている。租界ということで、諸民族に目移りした流れになりそうな所をあえて、国籍別にじっくり論じることで、上海の多国籍さが一層照らし出される。視点の良さもさることながら、文章も平易でありながら深みがあって、楽しく読めた。