上林暁という小説家の作品を、「図書館や古書店にあたればいつでも読める」という人と「どこで読むの? どんな作家?」という人がいる。
本書は基本的に後者のために作られた本であり、しかも、上林作品を読んだことのある人には、また別種の感慨をもたらす本になっている。
どの作品をチョイスするか、選者が悩みに悩んだ過程が率直に語られ、「そうだろうなあ」と素直に思う。
選者の山本善行さんに対してどんな評価をしようと自由だが、文庫でカンタンに読めない作品が収録されていたり、やはり自分の
お気に入りには執着があったり、大いに逡巡しただろうその様子は、山本さんが長年、上林作品にほれ込んで読み続けてきたこととあいまって
十分に信頼に足るものだと私は考える。
収録された7編のうち、最初に「花の精」が選ばれている点、まず、グッと来てしまう。この可憐で美しい一編を、未知の上林読者に向けて
最初に差し出すことに決めたそのセレクトは、やはり見事だ。
今日ではなかなか新刊書店で出会えない、ある意味マイナーな作家を、ドンと網羅的に出すのではなく、7編、というくすぐったい数の
作品集として世に出すことで、多くの人がその作品世界の入り口に立ち会えることは、とてもハッピーなことではないか。
本書は、上林暁という甘美で大きな世界の、a piece of cake なのだと思います。
手に持っていてうれしい、ていねいに作られた装丁とともに、何回でも読み返したい極上の本です。