三善晃(1933〜)は戦後日本を代表する作曲家。その作風は近現代フランスの音楽に多大な影響を受けている。
現代曲というと難解で近寄り難い印象を持ちがちだが、彼の曲は不協和音の中にも確たる美しさが存在すること
を教えてくれる。
本盤は、絶盤により長らくCDで聞けなかった彼の代表作の一つ「アン・ヴェール」を含み、彼の近作を多数聞ける
大変価値のあるピアノ作品集だ。
彼がフランス留学時に師事した作曲家アンリ・デュティユーは音の残響というものを強く意識した作品を書いており
、三善の作風もデュティユーの影響を多分に受けている。
その為彼の作品は音が鳴らされた後に余韻として残る響きが美しく、本人も多分にその部分を意識して作曲してい
るのだろう。
例えば「アン・ヴェール(En Vers)」。仏語で「韻を踏む」という意味であり、冒頭現れる一かたまりの音形が、正に
「韻を踏む」が如く微妙に形を変えて何度も繰り返される。その各々が残す音の響きの美しさは筆舌に尽くし難い。
他作品においても調性が不明瞭にも関わらず、音と音が時に衝突し、時に融け合うことで生まれる至上の美しい響
きを味わえる。
それら緊張感溢れる「尖った」作品群の合間に良いクッションとなっているのが、ピアノ曲集「音の栞」である。
本曲集は、学生のためのピアノ学習教本の一環として書かれたもので、本盤の作品の中で唯一明確な調性を持つ
作品である。過去にも三善は「海の日記帳」や「音の森」等、こどもの為だけでなく、大人の鑑賞にも耐える優秀な練
習曲を発表してきた。1曲1〜2分程度の小品群だが、簡潔な手法ながらフランス印象派風の洒脱な響きを持つ、と
ても素敵な作品ばかりである。付けられたタイトルも「話したいこと・たくさん」や「ファの波の穂」等小洒落た三善のセ
ンスが光る。
最後に演奏者の岡田博美氏は現代曲の分野で数多くの名演を残しており、流石本盤でも、時に鋭い刃のような響き
を出したかと思えば、「音の栞」での温かな眼差しで奏でる音まで幅広い表現を持ち合わせた大変高品質の演奏だ。
三善の音楽の魅力に多彩な角度から光をあてた名盤だ。