この本で紹介されているのは、チベットの仏教のなかでも、もっとも古典的なニンマ派と呼ばれている教えに属するものである。ちなみに最も一般的で有名な宗派はゲルグ派と言って、歴代のダライラマもゲルグ派に属する。
さらに、本書の「チベット死者の書」というのは、その古典仏教の開祖であるパドマ・サンバヴァが、あまりにも高度すぎてその時の人々にはわかってもらえないだろうということで、その妻に密かに隠したという「埋蔵経典」が、その後、14世紀になってから「発見」され研究された究極奥義「ゾクチェン」について書いてある。
その経文をたまたま見つけたアメリカ人、エバンス・ヴェンツの紹介で、その頃盛んだったユングを中心とする心理学者や、フラワー・エイジ、LSDに夢中になっていた若者たちが、まさにルーツを見つけたとばかりに大きな広がりを見せた。
とはいえ、チベットではこの「死者の書」は、とてもマイナーであり、チベット人でも知る人は非常に少ないと思う。また、思うに、仏教の基本や、チベット文化・歴史を飛び越えて、このような「究極奥義」なんてものに珍しさのあまり、飛びついても理解できることは少ないか、また、多くのアメリカ人のように間違って理解してしまうだろう。
なので、なにかの入門というよりは、興味をわきたてる触媒と考えて、この本を読み終わってからじっくりとチベットの世界を紐解いてほしい。
個人的には、ミステリアスなチベットもよいが、今、チベットの人たちが置かれている状況をもっといろいろな人に理解してもらいたい。21世紀になって、チベット人が、敬愛するダライラマ14世の写真を持つと中国公安警察に逮捕されるってとんでもないことだと思いませんか?