世界広しと言えども,キャップが無い,ノック式の万年筆はパイロットのキャップレスだけです。この「デシモ」は,初代から数えて10代目のキャップレスということで,「デシモ」というサブネームが付けられている,一回り小さいキャップレスになります。男性には小さく感じますが,持った感じは結構重量感があり,細くて使いにくいという感じはしません。むしろコンパクトで携帯は非常にしやすいです。
普通,ノック式の文房具はクリップの付いている方をノックするものですが,キャップレスは逆に,クリップとは逆側を押すと,「シャキッ」という小気味良い音と共に,クリップ側から細身のペン先が飛び出してきます。どんな仕組みなのかと中を覗きこむと,バネの力で開閉する小型精巧な金属製のシャッターがあり,ノックするとペン先がシャッターを押し開いて飛び出してくることがわかります。ペン先を収納すると,シャッターは完全に閉じ,インクのドライアップが防がれます。この仕組はとても精巧にできていて,意味もなくノックを繰り返してしまうほどです。これだけでもキャップレスを買う価値があるとさえ思えます。
シャッター機構だけでインクのドライアップが防げるのだろうかと,購入当初は不安でしたが,夏の暑い時期に長期旅行で1週間ほど留守にしても全く書き味に変化がありませんでしたから,ドライアップを防ぐ機構はかなり高いものがあると思います。
次に,肝心の使い勝手についてです。ペン先は細身ですが,18Kで弾力があり,書いているとペン先が細身・小型であることを忘れてしまいます。また,ペンポイントは丸研ぎで,ペンが紙に当たる角度が変化してもある程度一定の筆跡が保たれるようになっています。難点は,先の太さが一定であり,あまりハライがきれいに決まらないことでしょうか。所謂「眠い」字になりやすいと感じます。それと,パイロットの万年筆に共通するのでしょうか,インクフローが潤沢で,それもさらに文字の「眠さ」に拍車をかけてしまっています。自分はインクフローが渋くても,カチッとした文字が書けるペン先のほうが好みですので,この点は若干不満があります。
しかし,ペン先の角度にかかわらず筆跡の太さが一定であること,インクフローが潤沢で,筆圧を掛ける必要が殆ど無いこと,という特徴は,立っている状態,座っている状態,ノートを保持している状態,机の上においた状態,様々なシチュエーションが想定される仕事の現場で日常使いするには,大きなメリットとなります。どんな状況でも,万年筆は一定の筆跡を約束してくれます(もちろん限界はありますけれども)。よって,仕事だけでなく,プライベートでも万年筆を常に使っていたい人にとって,キャップレスは理想の万年筆となりえます。複写式の書類を書くのでもなければ,常に万年筆とともにいられる。これは所謂万年筆愛好家にとっては非常に嬉しいことです。
ペン先側にクリップが付いていることが気になる,という人のためにその点についてもレビューします。最初は「邪魔なのかな」と思うかもしれませんが,ペン先を繰り出して手に取ってみると,ちょうどクリップがペンを握るときの「ガイド」となってくれ,人差し指と親指でクリップを挟むようにしてペンを持つと,ちょうど最適な角度にペン先が向く,という非常に合理的な設計になっていることに気づきます。これは素晴らしいと思います。目からウロコです。
また,気になるお手入れについて。シャッター機構は,インクを保持したペン先で押し開かれる仕組みですから,当然としてインクで汚れます。カートリッジならそれ程でもありませんが,コンバーターを使うとインクフローがより多くなる関係で結構汚れます。かといって,コヨリを突っ込んで掃除できるようなものでもないし・・・と思っていましたが,パイロットのお客様センターに確認したところ,水洗いOKということで,シャッター機構ごとペン先をぬるま湯又は水の中に入れ,ペン先の出し入れを繰り返すときれいになりました。そのあとはよく乾燥させれば気持よく使用することが出来ます。
以上のとおり,キャップレスデシモは,そのコンパクトさ,いつでもどこでもドライアップを気にせず片手で使えるノック&シャッター機構,ペン先の設計の優秀さから,いつでもどこでも万年筆を使いたい,仕事のお共にして使い倒したい,ボールペンよりも万年筆を使っていたい,という方に最適の万年筆と思います。私も大切にしながら仕事のお供に末永く使おうと思っております。