古今東西のさまざまな逸話や人物伝を収めた、奇人・奇行の大事典である。
内容は、『市民ケーン』のモデルにもなった新聞王ハーストやロシアのピョートル大帝、哲学者カントなど、奇矯な言動で知られた著名人たちの「いかにも」なエピソードから、他の部分では至って平凡な小市民の(しばしば本人も困惑している)奇妙な習慣や強迫観念、一級の大学者(例えば数学者シャスレや脳生理学者ブリヨン)が突然陥る蒙昧の闇、奇行というより恐ろしいほどの不運に見舞われた人々の事例、心理学や脳生理学の研究対象にもなりそうな驚異的な記憶力や計算能力、アブドゥル・ハミド1世、ザマノ、チャウシェスク、ボカサといった暴君・独裁者のおぞましい事跡までと、非常に多彩で密度が濃い。一方で、読み進むうち、逆に「奇行とは何か」という根本的な問題についても考えさせられる。著者たちも強調している通り、何を「奇行」とみなすかは(賭の対象にさえなった世界一周が、やがて何の変哲もない旅行と化した例など)時代や文化圏によって全く異なるものだし、一見常軌を逸したような独裁者たちの行動も、何かのはずみで絶対権力を手にした凡人が全能感と猜疑心の板挟みになれば、必然的に起こってしまう事なのかもしれない。
興味本位に陥りがちなテーマにもかかわらず、著者たちの視点は意外にまじめで、人物・逸話の取捨選択もセンセーショナリズムやオカルト趣味を努めて排した節度のあるものとなっている。事例や評価の視点がやや欧米に偏っているように思える、信憑性に多少疑問のある内容も見られる、などの点はあるものの、とにかくボリュームがすごく、読んでいて圧倒される1冊だった。
あとは雑談や創作のネタ元に使うもよし、独善や軽信を避けるための教訓とするもよし、あるいは、博愛心や反骨精神といった点で見習うべき人物もいるかも知れない。