本製品、映画通の厳しい批判の矢を全身に浴びていたが、そういう扱いをされるような酷いものではない。というよりも、画質も音質も今まで鑑賞したことのある同作製品の中では最良と思われるのだ。
確かに「羅生門」の出来は最高だった。画質的にあれ程のきめ細かいレストアをされてしまうと技術者達の仕事に敬意を示さざるを得ない。それに比すると、本作BD版の修復は完全とは言い難いだろう。何よりも時折入るゴミやキズが気になる。ただ、それはあくまでもBDとして「羅生門」並に期待して観た場合であって、古い映画であり、原版の保存状態などを鑑みると、それ程この仕事を批判する気にはなれない。いや、よく修復している方だろう。DVDのレストア物と比較すると、やはりそれなりにキズが控えめになっていることは明らかだ。しかもHD画質の鮮明さでそうなのだから、実際にはかなり目立たなくなっているのであろうと想像される。一部全体の劣化が激しく酷い画像の箇所があるが、技術屋さんも魔法使いではないのでこれを完全に修復するというのは困難だろう。
また、全体的な画像のコントラストや輪郭のシャープさは本製品で初めて得られたのではないかと評価できる程に仕上がっている。俳優の肌の質感が良く分かる。
DVDと比較して進歩がないとおっしゃる方や、劣るとお考えの方は相当厳しい鑑賞眼をお持ちなのか、BDで発売する製品に対してそれなりの高い閾値を求めていらっしゃる方なのだろうと思われる。だが、考えて欲しい、本作は1954年の作品だ。修復してこれだけの鮮鋭度を得られるだけのマスターが残っていた事自体ありがたいような作品だ。「羅生門」がファインプレーなのであって、決して本作が悪い仕事な訳ではないのではなかろうか。
画質の評価はさておき、音質の面では快挙と言えるレベルに達している。旧来の本作の音声は字幕無しで聞き取れるものではなかった。ノイズが異常に多いのに加え、セリフ等の音声が篭ってしまっており、「ザラザラした中にゴニョゴニョと何か話している」と表現せざるを得ないようなものだった。
BD版の快挙は、Dolby TrueHDのリミックス5.1chだろう。字幕無しでセリフが分かるのだ!この感動は「七人の侍」の音にジレンマを感じたことのある諸兄には理解していただけるのではなかろうか。しかも、5.1chではあるものの元がモノラルの物であるので、それ程の立体感がある訳でもなく、元もとの音声の雰囲気は十分に保てている。オリジナルのモノラルLPCM、91年版 2ch LPCMも収録されているが、Dolby TrueHD リミックス5.1chの音の良さには飛び抜けた観がある。
画質云々をおっしゃる方でも、音質面では今までに無かった物を感じられるであろうことは間違いない。個人的に画質も一定の評価をするが、本作BD版は音に尽きる。これもHDの楽しみである。
とはいえ、古い作品である。それを十分に念頭において、そのワビサビも楽しまなくてはもったいない。
【補足】
クライテリオン版が届いたのでざっと比較してみた。
まず画質に関してであるが、流石クライテリオンと唸らざるを得ない。既に述べたようにマスター自体がひどい状態なので、クライテリオンとはいえ無傷とまではいかなかったようだ。いわゆる雨のような多くの縦線は残存している。ただし、国内版と比較すると随分と控えめにはなっており、画として観易い。コントラストの付け方も絶妙で、全体的にしっかりした画像とすることに貢献しているが、夜の場面はやや暗すぎる部分が多くやや観づらい。また、好みは別れるところだが、コントラストを強くすることでフィルムグレインがやや強めに出ており、粒子感は国内版より目立つかもしれない。輪郭の鮮明さは五分といったところ。際立っているのは場面ごとの画質のバラツキが極めて少なく、安心して観ていられることだろう。
音質に関してもクライテリオン版は健闘している。LPCMのモノラルと2chが収録されているのだが、どちらの音声も台詞を聴き取るに十分足る鮮明さを有している。音の立体感では国内版のリミックス5.1chには及ばないし、どちらが聴きやすいかと問われれば国内版の5.1chなのだが、モノラルと2chでこの音質を実現したことは素直に敬服に値する。これならば日本語字幕なしでどうにか大丈夫だろう。
全体的な完成度ではクライテリオン版に大きく分があると思われる。しかし、どちらも長所・短所を有する上、古い映画らしさも影響すると思うため、好き嫌いは別れるだろう。個人的には当時の劇場らしい雰囲気の画質を味わえる国内版も嫌いではないので、どちらも手元に残す事にする。