本書は博覧強記の作家ボルヘスの講演集である。
しかし、ボルヘス自身が「この本は悪くない」といったと伝えられるように、<語られた>本書も、<書かれた>彼の作品とおなじ質を保ち、おなじ世界にわれわれを導いてくれる。
すなわち、迷路のような世界、思いがけない光景、不思議な雰囲気のなかに。
タイトルどおり、七つの講演からなっているが、こんな調子だ。
ボルヘスが《あらゆる文学の頂点に立つ》と評する『神曲』を語る第一夜。
ダンテが地獄で、姦通によって罰されたパオロとフランチェスカから話を聞く有名なシーンを紹介したあと、ボルヘスはいう。
《ダンテが言わないことがあります》。それは、ダンテが《彼らの運命をうらやんでいること》である、と。なぜなら――、
《彼らは永遠に一緒であり、地獄を共にする。そしてダンテにすればこのことは、一種の天国であったにちがいありません》
第四夜の主題は「仏教」。
《「私は長い時間私の心を捜し求めましたが、見つけられませんでした」師は反論します。「お前が見つけられなかったのは、それが存在しないからだ」その瞬間、弟子は真理を理解します。自我が存在しないこと、すべては非現実であることを悟るのです。ここに禅宗のおよその本質があります》
第五夜「詩について」では――、
《私たちは、近くに女性がいるのを感じ取るようにあるいは山や海の入江を感じ取るように、詩を感じ取ります》
と前置きして、アルゼンチンのさる詩人のソネットを読み、解説する。
それは室内のランプや花を映す鏡をうたった詩だが、ボルヘスは《鏡は主役ではない》という。
それというのも、主役はソネットの最後の行――《触れ合う額と絡まる手が/映ることを望んでいる》詩人の思いなのだから。
最後の第七夜「盲目について」では、みずからの盲目の世界について、いろいろな体験を語ったあと――、
《近きものはすべて遠ざかる……日暮れどき、最も近くにあるものが、私たちの目から遠ざかっていく、目に見える世界が、おそらく永遠に、私の目から遠ざかっていったように》
といって話を閉じる。
一篇一遍は短いながら、じつに読み応えがある。
訳もいい。