東京からの別荘族の子どもたちと地元軽井沢で暮らす子どもたちは、
お互いの立場や環境の違いを知りつつも、健やかな友情や秘めた恋心をはぐくんでいた。
そんな彼らが、高校の卒業を前にして、噴火した浅間山に
興味を持ち、ともに登ることにした1973年の冬。
しかし、その登山は彼ら、彼女たちの運命を大きく変えてしまう。
この、18歳のときの出来事を胸にそれぞれの場所で生活していく2人の女と1人の男の
軌跡を、29歳、37歳、そして49歳…と、繊細に綴った長編小説。
実際の出来事(昭和48年のオイルショックやその頃の学生運動、
バブル崩壊にITブーム、親の介護問題など)を背景に、
仕事、結婚、その他さまざまな人間関係を通して、時には投げやりに
なる瞬間もありつつも、誠実に自分らしく精一杯生きようとする
主人公たちにとても素直に好感が持てる。話の運びも素直だ。
しかし、単調ではない。
今まで自分は、通勤電車やお風呂などの時間つぶしに良い意味で
ぴったり(素直で読みやすい文章と判りやすい話とちょうどいい軽さの
読後感。これが例えば桐野夏生あたりだと電車で酔ったり
お風呂でのぼせそう)、と、その軽さ、読みやすさで唯川恵を読み続けて
いたが、今回の作品は、ワインが熟成するように、この物語の主人公たちが
高校生から50歳に手の届く大人に成長したかのように、重厚な
味わいと洗練された物語性を持っていて、何かの片手間に読むことは
できなかった…というか、軽く出だしを読み出したら止まらなかった。
ものすごく失礼な言い方になってしまうけれども、実際、自分が
唯川恵で徹夜するとは思わなかった。嬉しい誤算だった。なので
読む方は十分な時間とゆったりできる空間を用意してから、というのが
お勧めです。