喉頭がんにより、余命一年半と「死刑の宣告」を受けた中江兆民の遺言と目される内容である。一年半を「余は極めて悠久なり」と考えるほど余裕があるゆえ、その文章に悲壮感は感じない。「一年有半」では、日々思うままのことが綴られている。
注目は「続一年有半」に記述された中江流哲学だと思われる。「わが日本古より今にいたるまで哲学なし」と考えたゆえ、自身を本格的に哲学を論じた日本人第一号と捉えていただろう。その内容はとっつきにくいものでもなく、すっきりしていながら毒舌でもあり、実におもしろい。「精神や霊魂は不滅で、身体は朽ち果てる」といった欧州流哲学を「ねごとを発するとは何たることぞ」と切り捨てる。なぜ「無仏」「無神」「無精魂」という発想になったかは、直接本文を読んでほしいが、欧州思想だけでなく科学にも精通した中江兆民だからこそ書けたという気もする。
また、中江兆民に師事した幸徳秋水の文章も見受けられ、師への尊敬の念と情が感じられる短いながらも実に読ませる内容である。