物語を満たす昭和の匂い。
そこに、盛り込まれたせつなさと喜び。
傑作だ。
物語の運び、構成、歯切れのよい文章によって、
ぐいぐいと、すらすらと読まされてしまう。
ギアをローにシフトしなければ、と自分に言い聞かせ、ゆっくりと読んだ。
速読では、この作者が仕込んだ苦い隠し味を充分に味わえない。
この三人称で書かれた一人称の物語は、
生と死という重いテーマを持つが、
優れた中間小説の常で、
この物語にも、涙があり、笑いがあり、謎がある。
謎、とは作者のたくらみだ。
そのたくらみのひとつは、
最終章がタイトルと同名の“新作古典落語”であること。
この趣向を知ってはいたが、
作者は読者をどこへ連れて行こうとしているのか、
との思いを抱きつつ読み進んだ。
もちろん、その疑問は、ある個所で氷解するのだが、
そこで、ぼくは「あっ」と声を上げてしまった。
上手い。
これは、もう名人芸だ。
そこで、読者であるぼくも、ある趣向を思いついた。
ひとまず、最終章を読むのは後回しにしよう。
近く、談四楼師の独演会が開かれ、そこで師は「一回こっくり」を演じる。
その高座で、作者の最終章を聴くのだ。
その後、ゆっくりと最終章を読むことで、
この優れた物語を、より遠近感を感じ、
また、立体的に味わうことができるのではないか。
この思いつきに、ぼくは、わくわくしているところだ。