ヴォートF4Uコルセア 世界の傑作機 NO. 88 の豪華版的な構成ですが、そのままではなく、特筆記事には注目すべき点があります。
1.【鳥養 鶴雄:「F4U コルセア」を生んだ技術とその背景】
ヴォート社の前作で レックス・B・バイゼル理学博士による
Sb2u Vindicator(ヴィンデケーター)、OS2U「キングフィッシャー」をはじめとする設計履歴と大直径プロペラの装備を可能とする逆ガル翼等の設計特性の得失の解説。
1-2 中央翼とその主桁キャリー・スルー【Carry through】
現代なら、ダッソー・システムズ社のハイエンド3次元・CADソフト「キャティア」【CA-TIA】 を利用した「コンピュータ支援設計」【CAD】による作図と数値解析手法の一つである有限要素法で強度を解析し、型鍛造した均質大型素材から、同コンピューター制御の大型NCフライス盤で削り出すところを、「主桁を残留応力が許容可能な範囲に収まる無理なく必要な円弧に曲げ加工可能な厚みの超ジュラルミン(2024系高力アルミ合金)の焼き入れ材帯板や細い断面材の集積構造」とせざるを得なかった前世紀ならではの設計事情。
2.【山内 秀樹:構造とシステム】
注目点としては、航空発動機の冷却設計に関する流体力学基礎知識に関する部分で、エンジンナセル、主機関である星型レシプロ・エンジンと補機類、及び発動機架を含めた部分の覆い。
普通、流線型に整形された外板で作られ、発動機周囲の空気抵抗を少なくしている。装着しないと冷却用の空気がフィンの間を正常に流れず、熱交換が不十分となる。
2-1:バッフルプレート【buffle plate】
「導風板」あるいは「流速制御板」の一種。カウリング内部に厳密な流体力学的計算により設置することで、カウリングの前面から流れる大気速度を圧力に転換し、高圧になった大気に発動機の熱を十分に吸収させ(熱交換の促進)、これを発動機の直径ぎりぎりの狭い隙間から噴出させることにより、前進速度による押し込み空気圧、低速時には後述のカウルフラップを開放することにより生じる負圧により、より効率的な熱交換を行う。
この手法を用いた空冷発動機に於ける冷却方式は「プレッシャー・クーリング・システム」【pressure coolong systems】と呼ばれ、排気効果による推力により空気抵抗を相殺し、上手に設計を行えば、エンジン排気との熱交換によって暖められた空気を噴射することで若干の推力を発生することも可能。
ノースアメリカン社が開発した 「P-51 マスタング/ムスタング【Mustang】においては、この原理を、ロールス・ロイス plc・航空機用・液冷V型12気筒のマーリン【Rolls-Royce Merlin】発動機のラジエーターの冷却配置に応用し、一説によれば下記の推力を得ているといわれる。
3.【田中 俊夫:コルセアの父、レックス・B・バイゼル列伝】
炭鉱町の寡婦家庭で勉学に励み、ワシントン大学で理学博士号を取得、カーチス・ライト社、スパルタン航空機社から、チャンス・ヴォート社で成功を収め、早期引退と幼少からの偏頭痛とパーキンソン病に悩まされた死去までの後半生。
2,000円と単一機の解説本としては(輸入洋書を除いて国産航空書籍としては)高価な書ですが、非常に読み応えのある一冊だと思います。
とかく前下方視界の不良と、離着陸性能の劣悪さから艦上機としての失格の印象の付きまとう本機ですが、「海賊船」(コルセアの本来の意)に魅力を感じるファンならば、旧版かつ廉価版である
ヴォートF4Uコルセア 世界の傑作機 NO. 88を既にお持ちであっても、別途購入の価値はあると思います。