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しかし、老学者アッシェンバッハがヴェニスに旅にでると文体がらりと変わる。修辞的な文は無くなり、俗な会話が多くなる。簡潔で美しい「名文」になるのである。そしてそういうときに彼は美少年タッジオに出会うのだ。長い間、理性を保ち、理論の世界で生きてきた彼は、目の前の「美」に触れてその感情(恋)に振りまわされる。
初めて美少年に微笑をもらったとき彼は「奇妙に憤怒」するのである。「きみはそんなふうに微笑してはいけない。いいかね。誰にだって、そんなふうに微笑して見せるものではないのだよ。」やがて彼は「認識」の世界に別れを告げ、自滅する。
マンは自戒の意味をこめてこの小説を書いたのかもしれない。しかし世の多くの読者はこの老人の死を否定的には思わなかったはずだ。私もむしろ賞賛したい気持ちがある。世に認められ、子供も成人している初老の芸術学者が出会ったのは、若者には分からない最も純粋な形の恋であったかもしれないし、それ以上の「人間が人間としてあるための秘密の扉」の1部だったのかもしれない。そう思わせるような雰囲気がこの名文のなかにはある。
この作品を読んでて感じるのは「陶酔」でしょうか。アッシェンバッハが美童タッジオに心から心酔させられたように、読者はこの作品の持つ雰囲気やらに心酔させられてしまうことと思います。この陶酔感に関して言えば、映画よりも原作のほうが勝るといっていいです。
映画を観る前に読むことをお薦めしていますが、既に映画を観たことがある人や映画なんて知らないという人にも是非ともお薦めします。素晴らしい文学作品です。
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