94年に同じ岩波新書で出されたベトナム事情紹介の続編的な著作。とはいえ、この間にベトナムは政体以外は激変してしまったので、新作といっても違和感はない。経済発展へ好条件がそろうが、「敗者」である南部の発展を先行させていいものか、北部にはジレンマがある。共産国家になってたかだか30年あまりの南部では、共産党員になることは名誉なことではないし「勝者」として国家運営を独占したいが、国民統合の建前から「敗者」の南部からも国家主席、首相などの国家の代表を出している。
建国の父・ホーチミンの伝記に1章が割かれている。現行体制である共産国家を語る上で、欠かせない人物であるのかもしれないが、1章で終わらせるにはもったいないし、「現代ベトナムを語る」という上では倉庫から引っ張り出してきたような唐突さもあり、帯に短したすきに長しという感想を持った。
著者独自の日本語訳を施した政府機関や、新指導部プロフィール、政治局員一覧など重宝するデータも多く、共産主義体制の展望や経済改革に伴う貧富格差の増大、少数民族政策など、ベトナム固有の問題を重視しつつも全体的に手堅くまとめている。ベトナム戦争の後遺症も紙幅の許す限り、丁寧に紹介されている。